
油脂の酸化とは、油脂中の脂肪酸が空気中の酸素と反応し、風味や品質が劣化する化学変化のことです。バターやナッツ、チョコレートなど油脂を含む素材は、保管中や加熱の過程で少しずつこの変化が進みます。この記事では、酸化が起こる仕組みと、製菓現場で品質を保つためのポイントをわかりやすく解説します。
油脂の酸化とは、油脂中の脂肪酸が空気中の酸素と反応し、風味や品質が劣化する化学変化のことです。
酸化が進むと、油脂に含まれる不飽和脂肪酸の二重結合部分が酸素と結びつき、過酸化物(ヒドロペルオキシド)が生成されます。これが分解される過程でアルデヒドやケトンといった不快なにおいの成分が生まれ、いわゆる「油の戻り臭」として感じられるようになります。菓子の世界では、この劣化がバターやナッツ、チョコレートなど油脂を含む素材全般で起こり得るため、品質管理上避けて通れないテーマです。
油脂の酸化の多くは「自動酸化」と呼ばれる連鎖反応で進みます。不飽和脂肪酸から水素が引き抜かれてラジカル(不対電子を持つ不安定な物質)が生まれ、そこに酸素が結びついて過酸化物ラジカルとなります。このラジカルが別の脂肪酸から水素を奪うことで、次々と反応が連鎖していく点が特徴です。反応が進むほど劣化は加速していきます。
酸化の進みやすさには、酸素・温度・光・金属イオンが大きく関わります。空気に触れる面積が広いほど、また保管温度が高いほど反応は進みやすくなります。さらに直射日光や蛍光灯の光、器具に含まれる金属イオンも反応を促進する要因です。水分や酸性度も影響するため、複数の条件が重なるほど劣化は早まります。
防止の基本は、これらの促進要因をできるだけ遠ざけることです。密閉包装や脱酸素剤で酸素との接触を減らし、直射日光を避けて低温で保管します。油脂に触れる機械・器具は、酸化を促進しにくい材質を選び、油脂と空気の接触面積を小さくする構造にすることも有効です。あわせて温度管理装置で処理温度を適正に保つことも欠かせません。
焼き菓子は、保管期間が長くなるほど油脂酸化臭が出やすい代表例です。バタークリームやナッツを使った商品、揚げ油を繰り返し使う工程でも、経時的に酸価や過酸化物価が上昇していきます。これらは、菓子の製造・取扱いに関する衛生上の指導で示された数値目安で、酸価は油脂の劣化度、過酸化物価は酸化の進み具合を表す指標です。菓子については、酸価が3を超え、かつ過酸化物価が30を超えてはならないとされており、現場ではこの数値を油脂が使用に適さなくなる一つの上限の目安として参考にすることがあります。
対応としては、日々の官能検査でにおいの変化を早期に察知することが基本です。加えて、生地に酸化防止剤を添加する方法も取られており、たとえばヤマモモ抽出物を0.1%添加すると、過酸化物価が基準値に達するまでの時間を無添加の場合の1.7倍に延ばせたという事例もあります。原材料の仕入れから製造・保管までの一連の工程で、酸素・熱・光をどれだけ遠ざけられるかが品質維持のポイントです。
風味や香りが劣化し、「油の戻り臭」と呼ばれる不快なにおいが生じます。進行すると食味だけでなく、過酸化物価の上昇など安全性の面でも品質基準を超えるおそれがあります。
酸価は油脂中の遊離脂肪酸の量、過酸化物価は酸化の初期段階で生じる過酸化物の量を示す指標です。どちらも滴定によって数値化するのが基本で、現場では簡易測定キットを使うこともあります。菓子では酸価3以下・過酸化物価30以下が目安とされています。
酸素・熱・光・金属イオンとの接触を減らすことが基本です。密閉包装や低温遮光保存、酸化防止剤の活用などを組み合わせて対策します。

執筆者 森岡千明|株式会社スナックミー パティシエ・商品開発
大阪のデザート専門店や東京の三ツ星レストラン、ケーキ店などでパティシエとして経験を積んだのち、株式会社スナックミーへ入社。商品開発職を経て、現在はカスタマーサポートを担当。商品開発で培った経験をもとに、お客さま一人ひとりの声にていねいに向き合いながら、福利厚生向け置き菓子の魅力や「おやつ時間」の楽しみ方を伝えるコンテンツ制作にも携わる。好きなおやつは『さつまいもチップス』と『サクほろ 濃厚ココアクッキー』。
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